和菓子Tさま

お客様の反応から改善する―お客様の反応に素直に応じて成功した事例―

会社の状況

業種:和菓子製造・小売業

年商:2千万円

従業員数:5名

 

設立:昭和38年


 

同店は、地方都市に店舗兼工場を構える小さな和菓子屋である。現経営者は3代目で、祖父の代から地域に根差したお店として愛されてきた。昔からの伝統的な和菓子だけでなく、「他にはないものを」を目指して商品開発に取り組んでいる。しかし、地域の人口減少や贈答需要の減少、若者の和菓子離れの影響を受け、売上高は5年連続で前年を下回る状況であった。 

事例の問題点


(1)職人視点の商品開発

経営者は和菓子職人として日夜新商品の開発に打ち込んできた。しかし、経営者が店頭に出ることは稀でお客様との接点が少なく、ニーズの収集が不足していた。新商品の開発は、経営者が気に入った材料が先にあり、お客様のニーズは工場の中で後から考えるやり方であった。そしてそのニーズの仮説も検証することなく、思い込みで開発を続けていた。そのため、新商品の数の割にはヒット作に恵まれないという状態がここ数年続いていた。

 

(2)店舗への意識が希薄

前述の通り、経営者が店頭に出ることは稀であった。あくまで工場で和菓子を作ることが経営者の主たる仕事であり、店舗はパートに任せていた。「良いものを作れば売れる」という考えであった。 

 

(3)検証を行わない風土

商品を開発した後の追跡はなかった。どこが良くてどこが不味かったということを振り返る習慣がなく、売れなければ「売れなかったか」と次の商品展開に思いをはせていた。定期的にチラシをポスティングしていたが、こちらも検証はしていない。「今回は売れた」、「今回は売れなかった」が振り返りであった。

対策


(1)人に話をきいてみる

当初、新しい調味料を活かした商品開発を含めた販売計画策定が当方に対する要望であった。経営者は調味料の良さや自分の考えるお客様のニーズをピーアールされていた。「健康に良い」、「低カロリーで女性に優しい」、「アレルギーの方でも食べられる」などである。しかし、それはあくまで経営者が考えているだけであって、当店を訪れるお客様がどう考えているかが分からない。そこで裏付けを取るために、働くパートや常連のお客様にどんなお菓子が欲しいかアンケートを取ることにした。これまで一人で黙々と開発を行ってきた経営者にとって初の試みである。結論は、想定していたニーズは無かった。アンケート結果は、経営者の想定外のニーズを示していた。このことは経営者の考えを変える大きなきっかけとなった。

 

(2)店頭に立つ

アンケート結果に衝撃を受けた経営者は、翌日から時間を見つけて店頭に立つようになった。店舗でお客様がどんな商品を手に取るのか、お客様とやり取りをする際に、どのようなことをおっしゃるのか知りたくなったからである。最初は不慣れなため、お客様とのコミュニケーションに苦労した。しかし、話せば話すほど色々なことが見えてきたため、何とか続けることができた。また、奥様やパートが馴染みのお客様に対し、「経営者は色々勉強をしている途中で、色々教えてあげてください」とフォローしてくれたことも嬉しかった。

 

(3)やりっぱなしにしない

今後の改善していくために検証が重要である。そのため、効果を測定できるように記録を取るようにした。販売データは今までのレジでは個別に出なかったため、商品ごとのデータが記録できるPOSレジを導入した。チラシも、配布枚数の記録や、お客様が持参いただいた際に、どこの地域の方か分かるような目印をつけるようにした。

効果


こうした取り組みを開始し1年が経過した。定期的に購入してくれていた大口の法人が無くなったため、売上高は前年比97%であった。もし、取り組みをしていなかったらと考えると「どうなっていたか」と経営者は言う。一方、粗利益は前年比131%であった。大口だが利益率の低い法人売上が減る反面、利益率の高い個人客の売上割合が増加したためである。特に、アンケートや店頭で感じた「記念日に大切な家族と食べる和菓子」が好評であった。シーズン毎に新商品を展開するとともに、敬老の日には饅頭におじいちゃんおばあちゃんの似顔絵をオーダーメイドで対応する等、個人客の取り込みが図れた。経営者は今も店頭に立ち、お客様から情報を収集している。加えて店内を回遊するお客様の様子から、陳列位置やディスプレイにも気が回るようになり、売場改善が進んでいる。お客様との関係性を深めるため、店舗通信を作成した。紙媒体で配布しており、楽しみにしている住民もいるという。発行から半年して、どのくらいのお客様が見てくれているのか検証したいと思った。そこで、記事の中に「当店入り口に置かれている信楽焼のたぬきは幸運のたぬき。頭をなでると幸せになります。」と特集を組んでみた。配布した次の日から、来店退店するお客様の様子に注目していたところ、半分以上のお客様がたぬきの頭を撫でていくのを見て、心の中でガッツポーズをしたという。