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【現場から第58回】支払うものの意味を考える

 

 ある飲食店のお客様から、キャッシュレス決済を導入した方が良いかというご相談をいただきました。

 キャッシュレスの可否はお話を総合的にお聞きした上で結論を出しましたが、一番問題だったのは、

 「何となく手数料がかかるから入れたくない」という発想です。

 

 電子マネーやクレジットカード決済を導入すると、数%の手数料がかかります。

 この手数料は売上高の純減になります。

 5%の手数料がかかるとすれば、単純に利益率が5%低下する。

 こう考える方が少なくありません。

 

 しかし、この今より数%利益率が下がるという発想だけで判断するのは危険です。

 例えば、一般的に現金決済よりもキャッシュレス決済の方が客単価は上がります

 目に見えて財布のお金が減る現金決済よりも、目に見えないキャッシュレス決済の方が気軽に使ってしまう傾向にあるからです。

 

 もう一つ無視できないのは、「現金しか使えない」ことによる機会損失です。

 ある調査によれば、キャッシュレス決済を使う方のうち、現金しか使えないなら行かないという方が約3割いると言います。

 また、会計のときに現金しか使えないことを知ったとき、次もそのお店を利用するかという調査では、7割の方が次の利用を控えるということでした。

 

 別にキャッシュレス決済の回し者ではありませんが、こうした結果は無視できるものではありません。

 

 大事なことはキャッシュレス決済の手数料を負担することによって、売上高が増える可能性があるということです。

 

 ところで、広告宣伝費となると手数料に比べて気軽に支出される方がいます。

 相談者もそうでしたが、キャッシュレス決済の手数料を広告宣伝費と捉えればいかがでしょうか。

 

 キャッシュレス決済により5%の手数料がかかるとすれば、1,000円のランチを頼むお客様を獲得するコストは1,000円×5%=50円です。

 一方、チラシでランチのお客様を獲得するとします。

 飲食店のチラシの反応率は一般的に0.5%といわれていますから、1,000円のランチを頼むお客様を1人獲得するには20枚のチラシが必要です。

 チラシの価格が11.5円とすれば30円のコスト。これに加えて配布コスト(業者への外注や自社の人件費)がかかります。

 

 こうして比較すると、手数料というのが本当に高いのかという疑問が生じます。

 

 大事なことは、「手数料=無駄なコスト」と短絡的に考えずにその効果を考えることです。

 加えて恒常的に使用している経費が本当に適切かどうかも費用対効果を比較しながら判断すべきでしょう。