厳しい状況の社長から、返済が予定通り行かなくなった際の対応について相談を受けることがあります。中には「約束通りに返せなくなったら、すぐに回収されて会社が終わってしまう」と心配される社長も少なくありません。
しかし、金融機関は皆さんが思っている以上に親身に話を聞いてくれます。
条件変更や借り換えは禁じ手ではない
実は金融機関は、返済が苦しくなっていることを把握していることが少なくありません。毎月の返済状況はもちろん、試算表や決算書から業況の変化は分かります。にもかかわらず、すぐに回収するような行動を取らないのはなぜでしょうか。
理由は簡単です。金融機関にとって良くないのは、取引先が倒産してしまうことです。予定通り返済してもらうことが望ましいのは確かですが、それで会社が立ち行かなくなるのであれば、金融機関にとってメリットがありません。
これは行政の方針とも一致しています。金融庁は条件変更や借り換えに応じることを否定的に見ていません。むしろ、経営改善の時間を確保するための支援として評価しています。
また国は経営改善計画策定支援事業(通称405事業)という、中小企業における経営改善の取組みを促す制度を設けています。この制度は金融機関が金融支援を行うことが前提の制度となっており、その手法の一つとして元金の支払猶予などの返済負担の減少があります。
返済猶予により業績を立て直した会社は多い
実際、返済を一時的に猶予してもらったことで業績を立て直した会社は少なくありません。ある小売店の例では、月々の返済額を従来の半分に減額してもらい、そこから2年かけて業績を回復させました。当初は返済額を減らすことに後ろめたさを感じていましたが、担当者から「返済を待つことで立ち直る可能性があるのであれば、それが一番望ましい」と言われ、前向きに取り組むことができました。
金融支援を受けるデメリットと考え方
もちろん、支援を受けるデメリットもあります。支援を受けている間は新規の借り入れが非常に厳しくなります。ほぼ出ないと考えた方がいいでしょう。
しかし、このような状況においては考え方次第だと思います。まず約定返済が厳しいと相談に行く状況では、そもそも新規借入自体が厳しくなっていることが多いです。そのため、支援を受けていようが受けてなかろうが、どちらにしても新規借入ができないケースも少なくありません。
また月々の返済額を減らすことは、新たに借り入れを受けるのと同じ効果があります。月額50万円の返済を減額してもらえれば、1年間で600万円の資金が手元に残ります。
加えて返済額を減らすことは確実に資金繰りを改善させます。中には「返済を進めれば融資枠が回復するから、回復してからもう一度借りる」と言う社長もいます。しかし、借入当時にOKが出た融資枠が、経営状況が悪化した今もそのまま残っているというのは楽観的過ぎると思います。
返したお金を再び貸してもらえるかは不明確ですが、返済を抑えた分のお金は確実に手元にあります。
返済を待ってもらうということは、返さないということではありません。期間を延ばして時間をかけて必ず返すという考え方です。もちろん、「待ってもらえるから大丈夫」と安易に考えるのではなく、その時間を使って着実に経営改善を進めていく必要があります。
しんどい時は素直に助けてもらおう
早めの相談が重要です。業績悪化の兆しが見え始めた段階で金融機関に相談することで、より多くの選択肢を得ることができます。切羽詰まってからの相談では、選択肢が限られてしまうケースが少なくありません。
ある建設会社の例では、手持ち工事が減少してきた段階で金融機関に相談しました。その時点では資金繰りにまだ余裕があったため、金融機関と落ち着いて対応を協議することができました。その結果、返済金額を調整することで手元資金を確保し、新規受注の営業活動に注力する時間を作ることができました。
このように金融機関は、取引先と共に歩むパートナーとしての一面も持っています。確かに貸し手と借り手という関係は変わりませんが、一方的に厳しい取り立てを行うわけではありません。経営者の率直な相談に対して、共に解決策を探ることもまた金融機関の役割なのです。
返済猶予は決して特別なことではありません。むしろ、経営改善に向けた一般的な選択肢の一つと考えることができます。大切なのは、経営者が状況を正しく把握し、早めに対応を検討することです。そうすることで、より多くの選択肢の中から最適な対応を見出すことができるでしょう。