中小企業の経営支援をしていると、社長から「うちの業界は特殊だから」という言葉をよく耳にします。確かに、業界特有の商習慣や取引形態はあります。しかし、多くの経営課題は業界を超えて共通しています。むしろ、他業種の知恵を活用することで、より効果的な解決策が見つかることが少なくありません。
多くの経営課題は業界を超えて共通している
私がある小売店を支援したとき、商品の在庫が多すぎることが課題でした。必要以上の在庫を抱えると資金繰りを圧迫しますが、品切れを起こすと販売機会を失います。そこで参考にしたのが、居酒屋での仕入れの考え方です。
居酒屋の食材は鮮度が命です。そのため、繁忙期の経験値から必要量を予測し、足りなくなれば仕入れ先に急いで追加発注します。小売店でもこの考え方を応用し、販売データから必要な在庫量を予測。在庫が少なくなれば、すぐに対応できる仕入れ先を確保しておく体制を整えました。
このように他業種の知恵を活用できる理由は、根本的な課題が共通しているからです。製造業での仕様変更への対応は、飲食店での接客と同じように「お客様の要望にどう応えるか」という課題です。小売店の在庫管理は、居酒屋での食材管理と同じように「必要なものを必要な時に用意する」という課題です。
その背景を理解しなければ無理が生じる
ただし、他業種の知恵を活用する際には注意が必要です。まず、その知恵が生まれた背景を理解することです。たとえば、居酒屋の仕入れ方式は食材の特性に合わせて確立されたものです。これを工業製品の在庫管理にそのまま当てはめると、かえって無理が生じる可能性があります。
次に、自社の状況に合わせて工夫することです。先ほどの小売店では、居酒屋の仕入れ方式を参考にしながら、商品の特性に応じて在庫の基準を設定しました。売れ筋商品は多めに確保し、特殊な商品は最小限に抑えるなど、メリハリを付けた管理を行っています。
経営顧問は他業種の知恵を「あなたの会社に合うよう翻訳」する
経営顧問の役割は、このように他業種の知恵を「翻訳」することです。ある業界で当たり前になっている工夫が、別の業界では画期的なアイデアになることがあります。しかし、その工夫をそのまま持ってくるのではなく、受け入れる側の状況に合わせて調整する必要があります。
たとえば、美容院のカウンセリングの仕組みを製造業の営業に活用した例があります。美容院では、お客様の要望を丁寧に聞き取り、実現可能な提案を行います。これを製造業の商談に応用し、「まずは相手の要望を十分に聞く」というルールを定着させました。
私の経験では、中小企業の経営者は自社の業界の常識に縛られがちです。「うちの業界ではこうするものだ」という思い込みが、新しい発想を妨げることがあります。しかし、他業種の視点を取り入れることで、その常識を見直すきっかけが生まれます。
他社の具体例は安心感につながる
実は、経営顧問が様々な業界の事例を知っていることには、もうひとつ重要な意味があります。それは、経営者の不安を和らげる効果です。経営者は「この方法で本当に大丈夫だろうか」と考えるものです。そんなとき、「別の業界では、こんな風に成功していますよ」という具体例があると、安心して取り組むことができます。
最後に、経営者の皆様へのアドバイスです。自社の業界だけでなく、他業種の取り組みにも目を向けてください。たとえば、接客の良い店を見つけたら、その工夫を自社に活かせないか考えてみましょう。一見関係のない業界の知恵が、自社の経営課題を解決するヒントになるかもしれません。