経営者の仕事は孤独です。日々の判断に迷いながらも、結論を出さなければなりません。「この判断で良かったのだろうか」と考え込むことも少なくないでしょう。
このような経営者の悩みに対して、経営顧問を壁打ち相手として活用する方法をお伝えします。壁打ちとは、自分の考えや悩み、アイデアを信頼できる人に話して、その反応やフィードバックをもらうことです。
壁打ちの必要性
なぜ壁打ちが必要なのかをお話しましょう。私たちは自分の中だけで考えていると、どうしても思い込みが生じやすくなります。「この方法しかない」、「うまくいくはずがない」といった固定観念に囚われてしまうのです。
例えば、ある製造業の社長は長年の課題であった設備投資について、「銀行は貸してくれないだろう」と思い込んでいました。しかし経営顧問に相談したところ、「なぜそう考えるのですか?」と問われ、実は一度も銀行に相談していないことに気づきました。その後、経営顧問と共に事業計画を整理して銀行に相談した結果、予想以上に前向きな返事をもらうことができたのです。
このように、誰かに話すことで自分の思い込みに気づくことができます。特に経営顧問は、多くの企業を見てきた経験があり、様々な視点からアドバイスをくれる存在です。
壁打ちの相手として活用するコツ
では、経営顧問を壁打ち相手として活用するコツをお伝えしましょう。
一つ目は、「まずは話してみる」という姿勢です。相談する内容を完璧に整理してから話そうとすると、なかなか相談の機会を作れませんし忘れてしまうことも多いです。完璧な準備は必要ありません。むしろ、考えがまとまっていない段階で相談することで、新しい気づきが得られやすいものです。
ある小売業の社長は、売上が伸び悩んでいる状況で経営顧問に相談しました。最初は「とにかく売上を上げたいのですが、どうしたらいいでしょうか」という漠然とした相談でした。しかし、経営顧問との対話を通じて、実は売上よりも粗利率の低下が問題だということが分かってきました。そこから対策を考え、最終的には利益率の改善につながったのです。
二つ目は、「具体的な数字を持って話す」ということです。感覚的な話だけでは、建設的な議論になりにくいものです。例えば「売上が減っている」という話であれば、「前年と比べてどのくらい減っているのか」、「どの商品が特に減っているのか」といった具体的な数字を用意しておくと、より深い議論ができます。
三つ目は、「定期的に話す機会を作る」ということです。月に一度など、定期的に相談の機会を設けることで、経営課題を先送りにしないようにできます。また、前回からの進捗を報告することで、自分自身の行動を振り返る機会にもなります。
ある建設業の社長は、気が付いたことをメモしています。毎月の経営顧問訪問に合わせてメモを取り出して、内容を精査、相談しています。
壁打ちの注意点
一方で、壁打ちをする際の注意点もあります。
経営顧問は、あくまでも相談相手です。最終的な判断は経営者である皆さんがしなければなりません。「経営顧問が言ったから」という理由で判断するのではなく、自分の考えをしっかりと持つことが大切です。
また、都合の悪い話を隠さないことも重要です。「良い所だけ見せよう」とすると、本質的な課題が見えなくなってしまいます。むしろ、悪い状況こそ早めに相談することで、より良い対策を考えることができます。
当然ながら、経営顧問に全てを任せるわけにはいきません。日々の業務で得られる現場の感覚や、お客様との接点から得られる情報は、経営者である皆さんにしか分からないものです。これらの情報と、経営顧問の客観的な視点を組み合わせることで、より良い経営判断ができるようになります。
そして何より、経営者の皆さんにとって、「一人で悩まなくていい」という安心感は大きな支えになるはずです。経営判断の質を高めることはもちろん、精神的な負担を軽減する効果も期待できます。
「この程度のことで相談していいのだろうか」と躊躇する方もいらっしゃいますが、小さな相談から始めることをお勧めします。小さな相談にもきちんと向き合ってくれる方でなければ、経営顧問を変えることも一つです。