· 

経営顧問が支援する「決める」という仕事


 中小零細企業で中小企業診断士が行う経営顧問の役割は、経営者の「決める」という仕事をサポートすることです。単にアドバイスを行うだけでなく、経営者と一緒に考え、判断のプロセスを共有していきます。

決定を支援する


売上を上げたい、利益を改善したい、資金繰りを良くしたいといった相談は、そのほとんどが「この方法で良いのか」、「このタイミングで良いのか」という判断を迷っているケースです。

例えば、ある小売業の社長からこんな相談を受けました。

「売上を上げるために、新商品を投入しようと考えています。仕入先からの提案もあって、商品自体には自信があるのですが、導入のタイミングに悩んでいます」

 

詳しく話を聞いていくと、商品の導入自体は決まっているものの、今すぐ始めるべきか、それとも繁忙期が終わってから始めるべきかで迷っているとのことでした。

 

日々判断の連続


このように、経営者は日々様々な判断を迫られています。その判断の一つ一つが、会社の将来を左右する重要な意思決定となります。特に中小企業では、経営者が意思決定の多くを担っているため、その負担は相当なものになります。

例えば設備投資の話を考えてみましょう。新しい機械を導入すれば生産性が上がり、競争力も高まるかもしれません。しかし、その投資額は会社の体力から見て適切なのか。投資回収は計画通りにできるのか。現在の受注状況から見て本当に必要なのか。様々な要素を考慮しながら判断を下さなければなりません。

 

判断を誤れば会社の存続にも関わります。そのため、経営者は慎重にならざるを得ません。しかし、あまりに慎重になりすぎると、チャンスを逃してしまう可能性もあります。この「攻め」と「守り」のバランスを取ることも、経営者に求められる重要な判断の一つです。

 


判断の先送りでチャンスを逃す


ある製造業の社長は、新規事業への参入を検討していました。既存事業の先行きに不安を感じ、新たな収益の柱を作りたいと考えたのです。しかし、新規事業には相応の投資が必要です。その投資額を既存事業から捻出するとなると、既存事業の縮小も考えなければなりません。

「既存事業を縮小して新規事業に投資するのは怖い。かといって、このまま既存事業だけを続けていても将来が見えない」

結局この社長は、判断がつかないまま数年が経過してしまいました。その間に競合他社は新規事業に参入し、市場でのポジションを確立していきました。

 

もちろん、新規事業に参入していれば必ず成功したという保証はありません。しかし、「判断ができない」ことでチャンスを逃してしまったのは事実です。

 

判断をサポートできる人は少ない


このように中小企業の経営者は、様々な判断を一人で背負い込まなければならない状況に置かれています。経営者の中には「相談する相手がいない」と悩む方も少なくありません。

 特に中小企業の場合、社内に経営の相談ができる人材が不足しがちです。取締役会があっても、実質的には経営者の独断で物事が進められているケースも珍しくありません。また、部長や工場長という肩書の社員がいても、実質的にはいち作業者という方がほとんどです。

 

金融機関や会計事務所に相談するという方法もありますが、いずれも立場上、慎重な判断をアドバイスする傾向があります。これは当然のことで、金融機関からすれば貸し倒れリスクを抑えたい、会計事務所からすれば税務リスクを抑えたいという考えが働くからです。

 

加えて彼らも、オーナー税理士でもない限り金融機関や会計事務所の担当者はあくまでもいち職員という立場です。経営者と同じようにリスクを負い、考え判断を下すという経験は圧倒的に不足しています。

 

経営顧問としての関わり方


このような状況の中で、経営顧問に求められる役割は、経営者の意思決定をサポートすることです。単にアドバイスを行うだけでなく、経営者と一緒に考え、判断のプロセスを共有していく。そうすることで、経営者の孤独な意思決定を支援していくのです。

 

例えば先ほどの製造業の社長の場合、新規事業への参入を検討する際に以下のようなプロセスを踏みました。

まず、既存事業の現状分析から始めます。売上高や利益率の推移、主要取引先の動向、競合他社の状況など、できる限り客観的なデータを集めて分析します。これにより、既存事業の将来性をより具体的に把握することができます。

次に、新規事業の市場性を検討します。市場規模や成長性、参入障壁、必要な投資額、想定される収益性などを検討していきます。この際、楽観的な見方に偏らないよう、リスク要因も併せて検討します。

そして、自社の経営資源(人・物・金・情報)と照らし合わせ、実現可能性を検討していきます。「やりたい」という思いと「できる」という現実のバランスを取ることが重要です。

 

このように、判断に必要な材料を一つ一つ揃えていくことで、より確度の高い意思決定が可能になります。経営顧問の役割は、このプロセスに寄り添い、時には経営者の思い込みに気付きを与え、時には新たな視点を提供することにあります。

もちろん、最終的な判断を下すのは経営者です。経営顧問はその判断のサポート役に過ぎません。しかし、判断の材料を整理し、経営者と一緒に考えることで、より良い意思決定につながることは間違いありません。

ある経営者はこうおっしゃいました。

「経営顧問に相談することで、自分の考えに確信が持てるようになった。以前は判断に迷うことが多かったが、今は自信を持って決断できるようになった」

これこそが、経営顧問による意思決定支援の真価と言えるでしょう。経営判断の質を高め、経営者の決断を後押しする。それが経営顧問に求められる最も重要な役割です。