決算書は見方が分からないと思っている社長は意外と多いものです。経理担当者や税理士に任せきりにしている方も珍しくありません。今日は、そんな「決算書の見方を知らない」という方に向けて、決算書や数字との付き合い方についてお話ししたいと思います。
経営感覚のチェックに必須の資料
決算書を始めとした数字の資料は、社長が持っている「カン」をメンテナンスする道具です。今の会社の状態はこんな感じだなという感覚と、実際の数字が合っているのかを確認する道具として使うことができます。
例えばある会社で、「A店が伸びてきている」という感覚を持っている社長がいました。この感覚は間違っていないかもしれませんが、どのくらい伸びているのかは数値を見なければ分かりません。
売上高が前年より2割増えているのか、5割増えているのか。売上だけでなく、利益も増えているのか。売上は増えているけど利益が減っているのかもしれません。こうした数値を見ることで、感覚と実態のズレを防ぐことができます。
決算書や数字を難しく考えない
ところで、皆さんは決算書というとどんなイメージをお持ちでしょうか。「難しい」とか「専門的」という印象を持たれる方も多いと思います。しかし、そもそも中小企業の決算書は難しすぎて分からないものではありません。難しく感じる理由は、専門用語を使っているからです。
例えば、売上高や利益という言葉は聞き慣れていますが、流動資産や固定負債といった言葉は普段使わないため分かりにくく感じます。
しかし、流動資産というのは1年以内に現金化できる資産のことです。例えば、商品や売掛金がこれにあたります。1年以内に現金になりそうなものと考えれば良いでしょう。
固定負債は、1年以上かけて返済する借入金のことです。1年以内に返す借入金は流動負債になります。
このように専門用語を一つ一つ分かりやすい言葉に置き換えていけば、決算書は難しいものではありません。
決算書の見方
決算書は難しいものではないと分かったところで、次は決算書の見方についてお話ししましょう。
・推移でみる
よくある失敗は、決算書の数字だけを見ることです。決算書の数字を見ても、それが多いのか少ないのか判断できません。
例えば、売上高が10億円ある会社があります。10億円という数字だけを見ると大きく感じますが、去年が20億円だったとしたらどうでしょうか。半分に減っているわけです。
反対に、売上高が1,000万円という会社があります。1,000万円という数字だけを見ると小さく感じますが、去年が500万円だったとしたらどうでしょうか。2倍に増えているわけです。
このように決算書は、数字の大小を見るのではなく、去年と比べてどうなのかを見ることが大事です。
・同業者比較は参考程度に
また、様々な経営指標や同業他社との比較という視点もありますが、これは参考程度に考えた方が良いでしょう。
理由は、中小企業の決算書の精度です。中小企業の決算書は、大企業のように専門家による監査を受けていません。顧問税理士がいる会社でも、チェックの程度は会社によって異なります。
ひどい例では、製造業なのに製造原価報告書が無くて粗利益率が90%という決算書もあります。作業者の人件費や光熱費等が原価にカウントされていないため、粗利益率が高くなっています。
まずは毎月確認しよう
まずは、毎月の試算表をチェックすることから始めます。試算表は、月々の経営状況を表す決算書の中間報告のようなものです。それまで税理士に任せきりだった試算表を見るようになって、こんな気づきがあった社長がいます。
「雑費が年々増えているのが気になったので、雑費の内容を確認してみました。すると、以前に契約した保険や電話など、既に必要のないものが含まれていました。整理したところ、月50万円のコストが削減できました」
このように試算表をチェックすることで、普段は気が付かない無駄を発見することができます。
次に、特定の項目に注目して推移を見ていきます。例えば、売上高や粗利益、経費などの推移を見ていきます。
「うちは売上が少しずつ落ちているんです」とおっしゃる社長がいました。売上高の推移を確認してみると、売上高は落ちているのですが、それ以上に粗利益が落ちていることが分かりました。
売上を確保するために値引きをしていたのですが、それが利益を圧迫していたのです。この気づきから、値引きを見直して粗利益を確保する方針に切り替えました。
数字はあくまで過去の情報
このように決算書や数値は、感覚と実態のズレを防ぐだけでなく、経営のヒントを得るためにも活用することができます。
ただし、決算書を見るときに気を付けなければならないことがあります。それは、決算書は過去の情報だということです。決算書は、既に起こってしまった結果を表しています。そのため、決算書だけを見て判断することは危険です。
例えば、決算書の数字が良かったからといって、今後も良い状態が続くとは限りません。反対に、決算書の数字が悪かったからといって、今後も悪い状態が続くとは限りません。大事なことは、決算書の数字と現場の状況を照らし合わせることです。
決算書の数字が良かったとしても、現場で何か問題が起きていないかを確認する必要があります。反対に、決算書の数字が悪かったとしても、現場で何か改善の兆しがないかを確認する必要があります。
このように決算書は、経営のヒントを得るための道具として活用することができます。難しく考える必要はありません。まずは、毎月の試算表をチェックすることから始めてみてはいかがでしょうか。