業種:水産加工品の製造販売
年商:1億5千万円
従業員数:22名
設立:昭和36年
当社は江戸時代に創業した鮮魚店を前身としている。以降代々創業家が家業を引継ぎ今日に至る。代々引き継がれてきた製法が好評で、土産物や贈答品として愛されている。しかし、平成9年に導入した新設コンピューターが作動不良にて顧客管理が不能となり、売上高・利益とも大幅に減少した。さらに平成10年以降バブル崩壊の波を受けて売上高が毎年1千万円規模で減少した。平成18年には売上高・利益共に下げ止めとなったが、厳しい状況が続いている。
(1)経営陣の意思統一がなされていないこと
経営陣は職人の社長と妻で販売・事務を担当する常務、長男の部長の3名体制である。3人の意見は統一されておらず、社長が独断で決定している。
このため、工場と販売の連携が悪くなっている。あわせて、3人の意見が一致していないことを良いことに、従業員は業務判断の際に3人別々に質問を行い、自分の都合の良い指示を採用し、言い訳に利用している。
(2)指揮命令系統が整備されていないこと
経営陣の意思統一がなされていないため、定常的な現場の判断は、工場では工場長が、販売部では主任が実質的に行っている。工場では、工場長が生産計画や資材管理を独自で行っており、全社の生産計画と一致しない問題が生じている。また、工場長は職人気質で黙々と自分の担当業務をこなすことを良しとしており、工場内でのコミュニケーションや作業協力が行いにくい雰囲気を作っている。販売部では、主任が部員やアルバイトに会社や社長の悪口を吹き込んでおり、主任の指示しかまともに聞かない状態である。
(3)顧客管理システムが機能していないこと
平成9年に導入したシステムがパソコンのOS上の問題で継続使用が困難になった。そのため、新システムの導入を行ったがエラーが頻発しており、まともに機能しない状態である。この対応に常務と部長が時間を割かれていることも、販売部主任の暴走を加速させている。
(1)定期的な経営会議の実施
根本的な窮境の原因として、経営陣が適切に機能していない点がある。しかし、長年の習慣や夫婦関係、親子関係もあり、一朝一夕に改善することは困難である。そのため、月に1回部外者(コンサルタント)を含めた経営会議を実施する。併せて、経営陣の間で連絡事項を伝えあう連絡ノートを導入する。ノート導入は経営陣のコミュニケーション改善だけでなく、弊所が関与していない時間のやり取りについても、後から確認ができることを意図している。
(2)後継者教育の実施
社長は工場が主体で意見が製造寄りになり、常務は販売が主体で意見が販売寄りになる。そのため、両部門に関与している後継者である部長に後継者教育を実施する。全体を見渡せる人材を育成することで経営陣の本来の役割を取り戻すことを意図している。
(3)従業員のコミュニケーション改善
工場と販売にも連絡ノートを取り入れ、経営陣と従業員のコミュニケーション促進を図る。また、月に1回工場・販売を含めた全体会議を実施し、会社の現状や働くことに対する考え方のミニセミナーを弊所で実施する。
(4)システム会社対応
システムの改善が見られないため、システム会社及び関係者を集め、現状の再確認と改善計画を提出させる。弊所も同席し、経営陣から直接言いにくいことについても、第三者として意見を述べる。
関与から1年、原材料費の高騰が影響を及ぼしたが、経常利益は前年基準をクリアすることができた。加えて以下のような定性的な成果が出ており、今後が期待できる企業となった。
①指揮命令系統の回復
毎月の経営会議が習慣化したことで、経営陣の意見が一致するようになった。また、従業員や社外関係者に対する対応についても、経営会議で協議しているため、3人がバラバラの対応を採ることが非常に少なくなった。年末の繁忙期には、社長が立てた生産計画を部長、常務がサポートすることでほぼ計画通りに生産することができた。この結果、毎年深夜まで続いていた残業時間が激減し、総残業時間は前年の約6割となった。この状況に自信を無くした工場長は繁忙期後に自主退職している。
②後継者の覚醒
従業員から頼りないと言われていた部長も、支援の中で急成長した。工場長退職後、部長が中心となって業務改善を実施。工場長のカンと経験に任せていた製造予定の算出方法を誰もが判断できる方式に変更した。在庫の見える化や資材の発注方法の見直し、倉庫の整理整頓等、様々な改革を進めている。
③従業員のコミュニケーションの改善
工場ではお互いに協力する風土が根付き、以前は19時を超えていた退社時間も、18時には完了する状態である。販売では経営陣や会社の変化に抵抗してきた主任がついに自主退職した。その際に主任派の販売員も退職している。新人を採用し一から教育が必要な状態だが、前向きに指示を受け入れるため職場が活性化している。
④システムの切り替え
半年ほど根気よくシステム会社と調整をしていたが、エラーの発生は防げなかった。ある時期から先方の対応が急に頑なになり、契約を更新しない旨の通知が届いた。継続する価値を検討した結果、早急に他システムに切り替える方が良いと判断。切り替えによるトラブルはなく、システムも安定して稼働している。
長年経営陣が経営を行わず現場対応に終始してきたことが様々な問題を引き起こしていた。定期的に事業や問題の状況を把握し、判断を下すという習慣化が重要である。