業種:喫茶・飲食店、珈琲豆販売
従業員数:5名
設立:平成23年
Aカフェ店長は欧州で珈琲の抽出方法を学んでおり、取り扱う珈琲豆も他店ではなかなか見られないこだわりの豆を使用している。創業当初、市内に本格的な珈琲専門店が無かったことから、本格的な珈琲に対する需要を取り込めると判断して開業した。さらに、ワインについても専門店が市内に存在しなかったので同様に期待を持って取り扱いを開始した。しかし、様々な宣伝をしてきたが来店客の伸びに悩んでいる状態である。
(1)手段が目的化した広告ツール
Aカフェでは毎月1回近隣地域にチラシを配布している。しかし内容は珈琲に関係の無いイベントやクロスワードパズル等のゲームが主体で、何のお店か分からない状態である。創業当初はお店のこだわりを掲載していたが、チラシを読んでくれる人を増やそうと考えた結果、現在の形になった。また、不定期で開催しているイベントも珈琲とは全く関係の無いイベントで、あるイベントでは店の前で800人集めたが、店内に入る人は数える程であった。広告やイベントの目的は「お客様にお店を知ってもらい、来店してもらう」ことである。Aカフェでは、広告を読んでもらうこと自体やイベントに人を集めること自体が目的化している。
(2)こだわりが伝わらない
店頭には「コーヒー」というのぼりがあるものの、店長のこだわりは一切伝わらない。また、店内メニューは壁に取り付けられた黒板にメニュー名が表記されているだけである。これでは分かる人しか注文できない。加えて、店内で珈琲豆の物販を行っているが店内にそれが分かる表記がない。
(3)方針が一貫していない
店長は店にこだわりをもっている。一般的なカフェにあるような洋菓子類はAカフェにはふさわしくないと考え、お客様から要望があっても置かないとしている。その反面、メニューの焼きそばやウースターソースの物販等、方針が一貫していない。店内にも下品なメニューやPOPは置きたくないという方針であるが、知人のお店のチラシ等が棚やカウンターに置かれ、景観を損ねている。
(1)お店の方針の見直し
初回社長ヒアリングを基に、お店の現状分析を実施した。2回目訪問時に分析結果を参考にお店のコンセプトを再構築することにした。コンセプトとして、「おいしい珈琲を楽しめる店」「リラックスできる空間」という方針で進めていくことを店長と確認した。
(2)店内コンセプトの見直し
他店にはないこだわりがあるAカフェであるが、「こだわりが伝わらない」「方針が一貫していない」という問題がある。これを改善するため「市内一の珈琲店」を方針に以下の施策を行った。
メニューブックに抵抗があるため、読み物形式のメニューとした。豆の名前や産地、特徴等を写真や図表入りで作成した。歴史的な背景やお勧めのポイント等も載せて、注文後の待ち時間にも眺めることができるものにした。
こだわりの珈琲を楽しめる食べ合わせまでを提供することをコンセプトにメニュー改善を行う。
元々こだわりの内装になっているが、関係の無い物販や不要なチラシが散見されるため、これらを撤去する。これに代えて、珈琲豆やワインに関する陳列や物販の掲示を行う。
(3)店外プロモーションの見直し
本来の目的である「お客様にお店を知ってもらい、来店してもらう」ためのプロモーションに変更する。
デザインや色使い等は親しみやすい印象を与えるためそのまま使用することにした。ただし内容は、珈琲やワインの読み物をメインに変更する。また、店舗外観が入りにくく心理的な敷居が高いため、店の中(店内、店長)が分るようにする。店内写真の掲載や店長のコメント等、店内の様子や従業員の人柄が伝わるようにする。
とにかく人を集めることではなく、以下のような目的を意識してイベントを企画する。
1月~2月の計3回の支援であったが、販促ツールやメニューについて、メールでやり取りをしながら推敲を重ねた。最終回は効果の確認だったが、店長は「目に見えて忙しくなった」と効果を感じている。訪問時も何組かのお客様が出入りしており、物販も月5万円から10万円に増加している。チラシを見たお客様が増加しており、新しく始めた珈琲に関する連載も好評である。これだけ様々な良い点を持っていたカフェだが、支援終了後に店長より「実は春には店を閉めるつもりだった」という話を聞いている。中小企業のマーケティングでは、「売れないではなく、買えない」という状態がよくある。社長はよく「売れない」と言うが、せっかくある良いものがお客様に伝わっておらず、お客様の立場としては知らないから「買えない」という。お客様が買えない状態を取り除いてあげるだけで、本来の売上に回復するという見本のような支援である。