業種:石油製品販売、LPガス販売
年商:5千万円
従業員数:1名
設立:昭和25年
同社は地方都市駅前の国道沿いに立地するガソリンスタンドである。創業者の息子である現社長は、誠実な性格で長年にわたり地域顧客を確保してきた。しかし、地域の高齢化や他販売店との競争環境が激化し、売上が年々低下。経費節減に加え、取引先の資金的援助(未払金)もあり何とか経営を維持してきたが、金融機関からの借入金返済の目途がたたない状況となった。あわせて、これまで資金的援助をしてきた取引先も経営状況が悪化しており、未払金1千万円の返済計画の提出を求められた。
(1)会計管理がなされていないこと
税理士との契約が、年に1度の確定申告時期のみの対応となっている。また、月額7万円で事務員を雇用していたが、請求書の発行業務のみを担当しており、会計関係については一切関与していなかった。そのため月次試算表が作成されておらず、年度が終わって初めて自社の経営状況が分かるという状態である。
(2)未来に対する対策がなされていないこと
月々の現状把握ができないこともあり、社長は何十年も、将来に対する不安を抱えながら日々の作業に没頭するしかなかった。また、経営面について相談できるブレーンもおらず、経営者としての仕事をできていない。本来経営者は、定期的に企業全体のことを考える時間を必要とする。しかし、苦しい企業では経営者が現場に没頭し、将来の対策が打てないため、より状況が悪化するという悪循環に陥るケースが多々見られる。
(3)前向きな投資がなされていないこと
資金繰り改善のためにコスト削減を行うことは必須である。しかし、ガソリンスタンドのような小売・サービス業において、顧客に近い費用の削減は諸刃の剣となるケースが多い。I石油店でも、接客要員のカットや店舗設備に対する投資、販促活動の費用といった前向きな経費を削減している。結果、店舗は薄暗くガラス面にはヒビが目立っており、トイレにいたっては洗面台が汚れで真っ黒になる等、お客様をお迎えするスペースではなくなっている。接客要員も不安で顔色の悪い社長1名である。さらに、販促活動を行っていないため、新しい地域住民に対するアプローチ手段がない。そのため、昔馴染みの顧客しか寄り付かないガソリンスタンドとなっている。
(1)事業内容の分析
過去の確定申告書及び売上伝票、売掛金台帳等の帳簿から事業の内容を分析した。結論として、以下の方向性が有効であると社長との認識が一致した。
以上の方向性で進めていくことを社長と確認した。
(2)経費を削減してコンサルフィーを捻出
社長は実行支援を強く希望していたが、コンサルフィーを捻出する企業体力はない。そのため、経営にプラスの影響を与えない以下の契約を解除して資金を捻出した。
これらの業務のうち、会計及び請求書発行の代行業務を月々のコンサルティングに加え、弊所が請け負った。また確定申告については、社長が税務署に確認しながら自身で提出することとなった。
(3)月一回の経営会議を実施
月次試算表を基に、前月の検証及び今月・来月の作戦会議を毎月実施している。その中で話し合われているのは以下のような事項である。
関与以降、原油価格の下落により売上高は減少傾向にある。しかしながら、経常利益が黒字化し、利益額も2期連続で増加している。また、最大の変化は社長である。開始当初は、社長の発言は後ろ向きで、顔色が悪く足取りも重い状態であった。しかし1年を経過するなかで、毎月状況が把握できることや、何かあったらすぐに相談できる相手がいること、販促活動を考えて実行に移すなど、自分一人ではやりたくてもできなかったことが実現していくなかで、社長は変化していった。社長は、「今まで先が見えない中でおっかなびっくりやっていたが、今は安心してできる」と言う。顔色が健康的になり、足取り軽い社長は、「今度このお客さんにも話を持ち掛けてみます」と前向きに活動をしている。余談ではあるが、社長自ら何年かぶりにトイレ掃除をしたと報告をいただいた。重曹を用いると汚れがよく落ちるそうだ。